異本 殺生石
 陽菜の掛け声で四人は一旦近くの空き地に行き、周りに人がいないのを確かめた。休日の朝なので人影はない。フーちゃんが手首のブレスレットみたいな装置で例のタイムマシンを呼び出す。
 銀白色の巨大な細長いロケットのようなその機体は、何の前触れもなく彼らの頭上に現れた。数秒陽炎のようにゆらゆらとぼやけた姿で空中数メートルの場所に現れ、それから次第に姿をはっきりさせながら音もなく地面に着地する。
 一度は見ている陽菜も玄野も明雄も、改めてその不思議な光景に度肝を抜かれた。フーちゃんがまた手首の装置を操作すると、胴体の横が一部外側に向けて開きちょうど飛行機のタラップのようになる。
 フーちゃんに続いてその階段を上って中に入ると、座席が二つずつ二列になって並んでいた。窓はなく完全に密閉された空間になっていて、まるで宇宙船のコクピットに乗っているような気分だ。
 前の右側の席が操縦席らしく、フーちゃんがそこに座る。前列の席の正面には大きな液晶テレビの画面の様な物があった。どうやら外の景色などはこれで見るらしい。
 操縦席の前にはいろいろ複雑な機械が並んでいる。フーちゃんは手慣れた様子で、タッチパネルをいくつも素早く操作した。正面のパネルがふいに明るくなり、周りの空き地の様子が映し出された。
「じゃあ、行くわよ」
 そのフーちゃんの言葉と共に、パネルに映っている景色が急激に下に下がった。いや、彼らが乗っているこのタイムマシンが上昇を始めたのだ。
 そしてパネルに映っている景色が不意に消失した。暗闇の中に、幾筋もの光が絶え間なく走る不思議な光景がパネルに現れた。フーちゃんが計器のタッチパネルを両手で操作しながら誰にともなく言った。
「亜空間に入ったわ。まあ、他の時間に移動する通路みたいな物ね」
 そして光の筋が次々に陽菜たちから見て後ろの方向へ移動し始める。このタイムマシンが動き出したという事らしい。次の瞬間、陽菜たちが乗っている操縦席全体に激しい衝撃が走った。何かがぶつかったような感じだった。
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