ヰタ・セクスアリス(vita sexualis)物語
呟く様にそう言った。

「それは、しのぶの本心じゃ無い。その、待ってるって言う男が全て悪いんだ。しのぶの事を放っておいて平気で居られる、その男が…」

 虫の音がやけに響く……

「――ありがとう、純……なんか、少し気分が晴れた様な気がする」

蹲った膝から頭を起こして、しのぶは純を見詰めた。そして、どちらからともなく顔を近づけてゆっくりと唇を重ねた。

しのぶの唇はメンソールの香りがする様な気がした。煙草は嫌いだけれど、しのぶの香りなら許せる様な気がした。
そして唇を離してから二人、暫く見詰め合う。

「さ、もう帰りましょう」

そう言ってしのぶかゆっくり立ち上がる。純もそれに続いて立ち上がろうとしたのだが足に力が入らず、立ち上がる事が出来ない。

「――し、しのぶ…もうちょっとしてからにしよう」

秋の夜空は何処までも爽やかに広がっていた。
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