ヰタ・セクスアリス(vita sexualis)物語
純の耳元で父親が、思い切り叫ぶ。その叫び声が純の頭の中に響いて怒濤の様に駆け抜ける。それと同時に起こる激しい頭痛、純は思わずベッドの上で頭を押さえて固まる。

「こ、この、くそ親父!」

そう叫んで枕をドアに向かってブン投げたが、父親はすんでの処でそれをかわし、ドアを閉めると、高らかな笑い声と共に純の部屋から去って行った。それが不器用な父親の純に対する愛情たと理解出来たのは、純があと少しだけ大人になった時の事だった。

          ★

あの日以来、純は時間が有ればしのぶの部屋……あの草の迷路の果てに有る彼女の部屋を、ちょくちょく訪れる様になった。

最初は複雑で解り難かった草の迷路も迷う事は亡くなり、むしろ、これがしのぶを守って居てくれる気がして、逆に安心さえ感じる様になった。そして、純の思いは時間を重ねるほど大きなものになって行った。そんなある日……壁にかけられたしのぶの写真を見詰めてた時、しのぶが思い出した様に、こう尋ねた。
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