ヰタ・セクスアリス(vita sexualis)物語
純のちょっと棘のある口調がしのぶには少しおかしく思えた。子供の癇癪に似た純の感情は、しのぶが昔、何処かに置いてきてしまった、自分の若さなのかもしれないと、そんな風に思えた。そして、ゆっくりと口を開く。

「――どうかな……」

そう言ってコーヒーを一口啜ると純をまっすぐに見詰めながら

「女は待たせちゃダメよ。本気の女はそれが何時までも過去にならないの」

「過去に?」

「そう、何時までも現在。現在が積み重なって、その重さに耐えきれなくなった時…」

しのぶの視線が一瞬周りを泳ぐ。

「死んじゃうかもしれないわ」

そう言ってからにっこりと微笑んだしのぶの表情はとても寂しそうに見えた。迷路を彷徨った挙句、出口が無い事が分って死んでしまう小動物。純は思った、ならば自分が出口を作れるのではないかと……いや、作らねばならないと。
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