ヰタ・セクスアリス(vita sexualis)物語
「こうして合ってる事自体がダメなのかもしれないわね。それこそ純の恋愛を邪魔してるのかも知れない」

メンソールの香りが純を包み込む。まるで甘い話の様に。

純は何時までもしのぶを待ち続けた。彼女は、あの日以来、駅前の喫茶店に現れる事は無かったのだ。

しかし、その合えない時間が純のしのぶに対する思いを抑えきれない程の感情に広げて行く。純は自分の変わりゆく心に狼狽しつつも、その快さに身を任せた。

          ★

季節外れの台風は純の住む街を直撃する事が確定したと天気予報で告げていた。そして、思い浮かんだのはしのぶの顔だった。嵐の中、草の迷路の中で怯える瞳を向ける相手も無く、身をひそめる小動物……そして純は漠然と思った。自分が行かねばならないと。

「純、何処に行くんだ?」

慌てて玄関に走り出た純に気がついて、父親が声をかけたが、そんな言葉等もう耳に入らない。

「え、ああ、ちょっと会わなけりゃならない人が居るんだ」
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