ヰタ・セクスアリス(vita sexualis)物語
「親父は食べ物に拘らないから……一週間続けてカップ麺でも何とも思わないみたいだし」

それを聞いた茜が、ちょっと顔をしかめて

「じゃぁ、今度やってみようかしら。一週間続けてカレーとか……」

茜もちょっと顔をしかめて純に向かってそう言った。それを聞いた純の箸が止まり、本気で嫌そうな表情をすると、ぽつんと一言こう言った。

「――ごめんなさい……」

茜はそれを聞いてにっこりと微笑みながら「大丈夫、冗談よ。今まで男所帯でろくな者食べて無かったんでしょ?これから、嫌って言うほど食べさせてあげるから、覚悟しなさい」

そう言って微笑む茜には不思議なオーラが有る様に思えた。それは人を無防備にさせる不思議なもので、茜本人がその事に気がついて居るかは定かではないが、純も確実のその領域に取り込まれつつあるのだ。心地よい蟻地獄とでも言えばいいのだろうか、一緒に暮らし始めて間もないのに、だいぶ遠慮が無くなっていた。

母になる女性の雰囲気とは、これ程、柔らかな物なのだろうか。全てを悟っていると言うか……そんな筈は無いのだが、純に瞳に映る茜の姿は、新しい命をを宿したと言う開き直りにも似た感情が感じられる。
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