ヰタ・セクスアリス(vita sexualis)物語
純がその手紙を開いて見たのは、帰宅して一人きりになった事を確認してからの事だった。女子特有の少し癖のある文字で綴られた文面は、読んで居て気恥かしくなってしまう物だった。純は、どうやら彼女の初恋の相手に選ばれたらしい。ちょっと切ない乙女心を噛締めながら手紙を読み進む。そして最後の一文を見て純の頭の中が、一瞬真っ白になる。

「今日の放課後、学校の中庭で待ってます……って…今日?」

純はバネ仕掛けの人形の様に椅子から立ち上がると手紙をポケットに詰め込んで慌てて部屋を飛び出した。

「あ、純君、何処行くの?」

茜の声が後ろの方で聞こえた様な気がしたが純は「ちょっと」と短く答えただけだった。そして家を出て自転車を引っ張り出すと駅への道を急いだ。

夕刻の少し前通勤客が集まるには少し早い時間帯、駅のホームは閑散としているが、その分電車の本数も少ない。

そんな訳で待ち時間がやけに長く感じた。そしてやっと来た電車がホームに滑り込んで来る。扉が開く迄の時間ももどかしく、純は一人列車に乗り込んだ。そして一息ついた処で、初めて冷静に考えて見た。そして気がついた。自分は何を焦っているのかと言う事に。
< 65 / 89 >

この作品をシェア

pagetop