ヰタ・セクスアリス(vita sexualis)物語
純は何故自分が良い訳をしているのか分らなかった。これは彼女が一方的に突き付けた約束とも呼べない事柄の筈なのに、この子が泣いているのは自分の責任の様な気がして、どうにも言葉が見つからない。

彼女は健気に涙を拭うと改めて純に向かって視線を移す。そして躊躇いながらこう言った。

「――来てくれただけでも嬉しいです。御返事は……どんなものでも、私は気にしませんから…」

純の心臓が再びどきりと大きく脈打った。

そして少し狼狽する。純は手紙の最後のくだりを読んで居なかったのだ。だから、ここに来るには、有る決断をしなければならなかったのだ。その事に、今更ながら気がついた自分の思慮の浅さをここで後悔した。

「――あ、あの、西川さん…」

「はい……」

「その返事って言う奴は、もう少し時間を貰ってからで良いですか?」

 真顔の純を見て彼女は少し戸惑った表情を見せる。

「――つ、つまり、お互いの事を良く知らないで、好きだの嫌いだのって言うのは短絡的過ぎると思うんです。だから……」

「――だから……」

「友達から始めさせてくれますか?」
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