ヰタ・セクスアリス(vita sexualis)物語
「付き合ってみてから始まる情も有るのよ。お見合いは、その最たるものでしょう?会って話して、そこからすべてが始まるの」


ちょっと遠くを見る様な茜の瞳に気がついて、純は少し意地悪く尋ねて見た。

「茜さんは、お見合いした事が有るの?」

その問いに茜は微笑みながら首を振った。

「残念ながらないわ。でみ、一時期憧れた事が有るのよ」

「お見合いに?」

「そう、なんか大人になったって言う実感が味わえるんじゃないかと思ってね。あまり深くは考えなかったけど、ちょっぴり憧れた事は有るわ」

 そう言う茜の瞳を覗き込む純の瞳は、彼女の言葉が理解出来ないと言う事が様子が見て取れた。

「ま、純君位の年じゃぁそんな事気にしなくても良いものね。知らない出合いの方が多いんですもの、可能性の方が大きい時代に段取られた恋愛なんかする必要は無いわ」

 茜は微笑みながらそう言うと再び少し遠い瞳をして見せた。純はその視線の方向に有る物が自分の父親である事に気がついて少し複雑な思いがした。そして再び茜の事が理解出来なくなって、思わず彼女をじっと見詰めた。
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