ヰタ・セクスアリス(vita sexualis)物語
「おはようございます」

 いつもの踏切で純と悪友達が何時もの様に電車の通過待ちをしていた。何時もの他愛の無い会話に突然割り込んで来たのは、昨日の西川貴子とその友人達と思われる女子生徒の三人組だった。

「――あ、お、おはよう……」

 純の少し気まずそうな表情を察したのか、貴子はそれ以上会話を続けようとせず、再び女子達の中に紛れてその存在を隠してしまった。しかし、周囲の悪友達にとって、これは大事件だった。見ず知らずの女子が話しかけて来た。多感な年ごろの少年達にとって、それは大問題なのである。

「おい、純!」

 純の悪友の一人が、ちょっと興奮気味に彼の肩をばんばんと叩きながら、耳元で囁いた。

「おい、純!誰だよあれ?」

 明らかに目の色が変わった彼の表情は、思春期の男の子の欲望を素直に表している。

「いや、ちょっとした知り合いで……」

 純の言い訳などには耳を貸す様な悪友達では無かった。女子と話す、いや、親しくなるチャンスで有れば、それが大事な友人の知り合いでも、衆人環視の中ででも何でも構わないのだ。思春期の欲望は、後で考えると信じられないくらい激しい物なのだ。
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