ヰタ・セクスアリス(vita sexualis)物語
「取れないって…保、おまえ、ひょっとしてバイクの免許取ったのか?」

それを聞いた保が純の瞳を見詰めにやりとイヤラシく笑って見せた

「ああ、とりあえず普通二輪だ400CCまでなら乗れるさ」

「おい、保、うちの学校、二輪の免許は禁止じゃぁ…」

「まぁ、気にするなよ純君、若者は躊躇っちゃぁイケないのだよ」

保はそう言って純の背中をばしばしと連打する。その態度から、純はようやく気が付いた。

「…保、じゃぁ、このバイク、ひょっとして…」

純の問いかけに保の表情が眩しく輝く。

「おう、買ったさ、今週末には俺のものだ!」

保は純に向かって得意げにそう言って愛おしそうに真紅のバイクに手を添る。
おそらく保の気持ちは既にどこかに向かって走り出しているであろう事がひしひしと窺えた。

「…しかしな、保よ」

工場に入って来た店主は少し表情を曇らせながら保に向かって話を始める。

「出来れば、一年か二年は癖が無いバイクで、公道走ってから外車でも旧車でも選んだ方が良いと思うんだがな…」

しかし、保の心は既に峠の向こうまで走り去っている。若者の憧れは、いつの時代いなっても大きく違わない物だと保の表情を見て店主は思った。そして、その思いは、純の心の中にもちょっとした違和感を感じさせる。
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