ヰタ・セクスアリス(vita sexualis)物語
「え?」

不意を突かれた純は妙な声と共に茜の瞳を覗き込む。

「何か悩んでるでしょ、顔にお~っきく書いてある…」

茜は眉間に皺を寄せて純を見上げながら物凄く深刻そうな表情で純に向かって
そう言った。

「…あ、いや、別に大した事じゃ無いから気にしないで…」

純は茜の視線を避けながらぼそぼそと、そう言うと、足早に一階のキッチンに向かって降りて行こうとしたが、茜は純のTシャツの裾を引っ張って離そうとはしなかった。

「悩み事って言うのは、人に話さないと解決しないものよ。一人で解決できないから悩み事なの」

純はごもっともでありますと思うと同時に夕食を食べながら話そうと言う事にして、二人連れ立ってキッチンに向かって降りて行った。そして思う、女の人って言うのは、こんなに鋭いものなのだろうかと。貴子もこんな感じで、人の心を心理カウンセラー宜しく読み取って、最後は男を手玉に取るのだろうかと漠然と考える。

そう考えていたと同時に…

「さっきと別の事で悩んでる…」

茜の鋭さに負けて、純は隠し事をする気力が失せ全て正直に話そうと言う気になった。そして、何故か知らないが、自分の父親がちょっととだけ可哀そうになった。たぶん、一生、茜の掌の上で踊り続ける事になるんだろうなと言う事が容易に想像できたからだ。

そして更に祈る…貴子の勘が鈍い物で有ります様にと。
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