ヰタ・セクスアリス(vita sexualis)物語
「――その、所謂ところの、オタクチックなのはちょっと嫌かな…ううん、気持ちが分からない訳じゃないし、熱さも伝わって来るんだけど、なんと言うか…入り込み過ぎていると言うか…こう…ねぇ…」

貴子は純の顔を見ながら、語尾がはっきりしない口調でそう言うと苦笑い。どうやら、その表情で理解して欲しいと言いたいのであろう、純はそれを察して貴子の瞳を見詰めながらにっこりとほほ笑んで見せた。

「何事も加減が大切って言う事だよね」

純の言葉に貴子はにっこり微笑んで頷いた。

「じゃあ、わたし、こっちだから」

二人は何時もの分かれ道で、ちょっと名残惜しそうにしてから何時も通りに分かれると、それぞれの道を歩き出す。純の脳裏に何故かふわふわと揺れる、貴子のポニーテールがちらついた。

そして純は小さな公園前のスクランブル交差点で信号待ち中、何気なく反対側の道に目をやると、そこにはスーパーの袋をぶら下げて、にこにこしながら胸の前で小さく手を振っている茜の姿を見つけた。
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