ヰタ・セクスアリス(vita sexualis)物語
純は信号が変わるのを待って、小走りに彼女に向かって歩みよる。

「よっ、青年、青春してるかい?」

人目を憚らない茜の声に純はちょっと焦りながらあたりを見廻してから――

「あ、茜さん、ここ、往来…だから…」

「あら、気にしない気にしない、このくらいの事なんか誰も覚えちゃいないんだから、少しぐらいの事は忘れちゃって平気よ」

純は、ここ最近の茜の変化にちょっと驚いていた。この底抜けな明るさはどこから出てくるのだろうかと、これが女性が母親に代わって行く過程のひとつなのだろうかと考えると、子供が生まれるってう事は大変な事なのだなと改めて実感した。

命を守る立場になるのだ、母親は子供の為なら自分の命など全く惜しいと思わないのだ。生まれ来る命は自分の分身であり未来を支える「種」なのだ、それ生み出す事に誇りと尊厳をかけるのだ。

純は、ため息交じりに、それでも幸せそうに笑顔を振りまく茜を見て、改めて女性は強い物だと実感した。
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