ヰタ・セクスアリス(vita sexualis)物語
純は自宅の玄関を開けて
「ただいま」と言うと

「おう。遅かったな」

玄関の近くに有る父親の
書斎兼仕事場から声が聞こえた。

純の家は彼と父親の二人暮らし。
母親は純が小さい頃に病気で亡くなって
それ以来、男二人の生活だった。

純は仕事部屋の扉をノックもせず無造作に開き
顔だけ突っ込んで帰って来た事を伝えると
二階の自分部屋に向かった。

部屋の机の上に学生鞄を放り投げ、
詰襟の制服から普段気に着替えて、
ベッドの上に寝転がる。

その時初めて自分のにおいに気がついた。

さっきしのぶが吸っていた煙草の香り。
純にとって初めての女性

…厳密に言えばそうではないのだが、

少なくとも裸の女性を直視したと言う意味で
しのぶは初めての女性だった。

…初めての香りはメンソール
< 9 / 89 >

この作品をシェア

pagetop