空しか、見えない
 急に額に汗が浮かび、車内を息苦しく感じ始めた。会いたくない。それどころか、いますぐにでも、逃げ出したいような気持ちだった。
 もうとっくに終わったはずの付き合いだというのに、佐千子の中ではまだ何も終われていないのだと気付くのは、こんなときだ。

「大丈夫、サセ?」

 振り向いた環の髪が、すっかり濡れている。
 佐千子は「うん」と頷きながら、去りゆく海面の波を見ていた。
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