空しか、見えない
佐千子の心音が高くなる。その後ろから、千夏に覆いかぶさるようにしてこちらを覗いているのが、のぞむだ。以前はあんなに髪は長くなかった。髭なんて生えてなかった。なんだか、汚らしい横顔に見えた。革ジャンに髭面、ニューヨーク帰りかなんだか知らないけれど、以前ののぞむが刷り立ての新聞紙なら、いまではすっかりもみくちゃにされた古新聞じゃないかと言ってやりたくなる。