空しか、見えない
 サセというのは他でもない、佐千子の当時のあだ名だった。社会の先生が何を間違えたのか佐千子の名前を「サセコさん」と呼び、それからずっとそう呼ばれ通した。そんな最悪の記憶が蘇ってくるのに、しだいに胸の内に広がり始めた現実への痛みよりは、ずっとましだった。
 少しずつ、迫ってくる。心の中に重たい空気が流れ込んできて、さきほどまで頭に思い浮かんでいた義朝から笑顔が消えていくかのようだ。
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