空しか、見えない
千夏、起きろよ。佐千子は、本当だったら揺すぶって起こしたい心境だった。のぞむと直接話すのではなく、もっと千夏からいろいろ聞きたい。だけど反対に、どうでもいいような気もしてくる。のぞむなんて、ばかやろうだと佐千子は思った。たぶん、体を横たえたとたんに、急に酔いや今日一日の驚きや疲れが回り、睡魔に包まれたのだ。本当はうれしくて仕方がなかったのに。どうあれ、襖を隔てたすぐ隣の部屋にはのぞむがいて、朝目が覚めてもまだ彼がいるはずなのだ。朝までいてほしいと頼まなくても、約束しなくても、のぞむとはまた、朝になったら会える。そう思うだけで、佐千子はいつの日か以来の温もりに包まれていた。