空しか、見えない
 もうずっと忘れていた安らぎだった。
 ひとりきりの部屋へ帰り、灯りをつけて、暖房を入れる。寝支度をして、ひとりで眠るのには慣れた。
 でも、眠る前に思い出すのは、いつだって漠然とした、薄やみのベールのような寂しさだった。なぜのぞむは連絡をくれないのか。自分はどうしてそこまで忘れられてしまったのだろう。考えても仕方のないことを、頭のどこかが小さく冴え渡り、伝えてきた。母が亡くなり、今度は義朝を見送り、薄いベールが次々と重なっていくのに慣れようとしていた。
 佐千子の独り暮らしは、ここでは言えなかったけれど、寂しさを噛み締めるばかりだった。それでいいようにも思っていたし、どこか強くもなったはずだ。でも今日くらいは、外は嵐だけれど、安心して眠りたい。そう感じていた。
< 283 / 700 >

この作品をシェア

pagetop