空しか、見えない

　マリカは、自分の毎日に不満があるわけではない。大学を出た後は、第一志望だった航空会社に勤務した。パリと東京を往復し、向こうに自分だけの部屋までできた。
　東京へ戻っても、何か寂しいと感じるときは、よく義朝に付き合ってもらった。フランス人クルーのあからさまな皮肉を愚痴っても、義朝は、とぼけながら聞いてくれた。彼は、ハッチのメンバーのみんなをよく気遣っていた。義朝とふたりきりで会っていても、彼はいつもハッチのメンバーみんなの気配を引き連れてきてくれるようだった。
　義朝がとぼけてくれなかったら、もっと深刻に悩んだかもしれない日々の小さな事柄。義朝がいないから他の誰かを探すのではなく、これからは自分が強くならなくてはいけない。それができてこそ、仲間なのだ。