空しか、見えない
「もう、いいよ、のぞむ」

 今度は力なくそう呟くと、携帯電話を枕元に置いて佐千子は毛布をかぶり目を閉じた。
 どこか微熱に浮かれているようで、それでいてひどく満ち足りた安らぎがあった。大体、眠るのも忘れて飲んで騒いだのは、大人になってからははじめてだった。

「もう一度、遠泳しない? このメンバーで」

 みんなとの別れ際、なぜいきなり自分があんなことを切り出してしまったのか、佐千子はおぼろげに記憶をたぐり寄せてみる。
 ふいに、口をついてしまっていたのだ。あの夏のきらめきを、思い出して。
< 321 / 700 >

この作品をシェア

pagetop