空しか、見えない
 家族でもないから、そんな生活を割り切ってやり過ごせてきたはずだった。のぞむは子どもが好きだったし、赤ん坊を抱くとほっとするのも確かだった。
 それでも、どこか遠慮はある。ずっと、遠慮を抱えたままで、はっきり言うなら、限界が来ているのは事実だ。

「のぞむ、Will you come back?」

 帰国の荷造りを始めた自分に彼女が向けた目には、同居人以上の温もりが宿っていたはずだ。

「Why?」

 なぜ、そんなこと訊くの? 返事に困ると、そうやって訊き返す癖がついた。

「‘Cause, you look sad,Nozomu」

 ルーは、いつも鋭いのだ。あの時自分は、まるでその部屋での暮らしに区切りをつけるかのように、荷造りに夢中になっていた。
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