空しか、見えない
 昔から、芙佐絵には、純一が憧れだった。
 もちろん、ずっとひとりだけを思い続けていたわけではない。大学生のときには合コンだってしたし、何人かは付き合ってみた相手もいる。けれど、心の中の憧れはずっと純一のままだった。
 高校を卒業し音大へ進んだ彼とはなかなか会えなかったが、時折顔を会わせるたびに神々しさを感じるほどの相手になっていった。
 細くて長い指が、グラスやペンを持つ時、その仕草もすべてどこか力強く、また繊細に見えた。自分に笑いかけてくれるときに、澄んだ目は、ずっと心の中に住み着いた。
 なのに、もう婚約してしまったなんて。
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