空しか、見えない
「あの」

 眼鏡の奥で、濡れた睫毛が瞬きしているのが見える。そのくらいすぐ傍に顔を寄せてくる。

「ああ、そうか。教えてほしいなら、いいですよ」

 吉本に先に言われて、また腹が立った。本当はそう頼みたかったような気もするが、芙佐絵は意地になる。

「違います。プールが空いている日を教えてほしかっただけです。先生にからかわれるのは、ご免ですから、私ひとりで特訓しますから」

「ほお、それは頼もしいなあ」

 そう言って、また吉本はがに股の足取りで、去っていった。
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