空しか、見えない
 彼女の言う通りだった。一緒にいても、控え目な由乃となら、いつも心地よかった。楽譜や本を買いにいくのも、ときには買い物へ行くのも、それまではひとりでしてきたことだったが、ふたり一緒であっても自然に思えた。
 けれど岩井海岸から戻ってからは、急に彼女に閉じ込められているような束縛を感じる。どこへ行くにも見張られているように感じるし、息苦しい。
 書店にだって、カフェにだって今では昔のようにひとりきりで行きたいし、ましてやジムへ行くのに彼女の許可を取るつもりはなかった。

「何がいいわけ? 昔の仲間と遠泳に行って、何が楽しいの?」

 由乃の問いかけに、純一の顔から笑顔が引いていった。義朝、俺はとてもお前みたいにはできないよ、そう心の中で呼びかけるので、精一杯だった。
< 393 / 700 >

この作品をシェア

pagetop