空しか、見えない
「じゃあ訊くけど、何がいけないって言うの? 昔の仲間たちと、ただ思い出の海で泳ぐのが、どこかいけない?」

「あなたらしくないじゃない。あなたは音楽家なのよ」

「音楽家は泳いではいけないの?」

「子どもっぽいじゃないの。ばかみたいな話だわ」

 純一はそのときばかりは、自然に笑えた。
 婚約者はなかなかいいことを言う、と素直に思えた。
 子どもっぽくて、ばかみたいな話――。
 確かにその通りだった。とっくに社会人になった仲間たちが、かつてバディを組んだというだけの理由でまた、夏の海に泳ぎだそうというのだから。
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