空しか、見えない
「そうだ、由乃にも水着、買ってあげようか。だったら、一緒に泳ぐ?」

「いやよ。水着なんて、いらない」

 彼女はそう言って、寝室の扉を乱暴に閉めて、レッスン室へと戻っていった。
 純一はしばらく呆然としていたが、急いで荷物をまとめた。構わないよな? 義朝、このくらい俺の好きにしたってさ。俺、うれしいんだ。久しぶりに泳ぐのがさ。どれだけ泳げるのか、自分でもわからないのが、楽しみなんだ。
 激しい調子で弾くピアノの音色が音楽室から漏れてくる。


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