空しか、見えない
 義朝、俺、どうなっちまったんだろう? 薄れていく意識の中で、のぞむは旧友に語りかける。
 こっちで入院なんてことになったって、保険もなければ、金もない。アメリカじゃ、貧乏人はおちおち病人になんかなれっこないんだよ。
 薄れる意識の中で、のぞむは泳いでいた。
 どこか暗い海の中を、独りきりで泳いでいた。流れが強く、掻いても掻いても進まなかった。岸は近くなるどころか、どんどん離れていくように見えた。ハッチの仲間たちが、誰ひとり見当たらないのは、どうしてなのか? どこではぐれてしまったんだ? みんなはもうとっくに岸にたどりついて、のぞむがいないのにも気付いていないのかもしれない。
 おーい、環、サチ、俺はここにいるよ。まだ、泳ぎきれていないんだよ。おかしいんだよ。全然体が進まない。
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