空しか、見えない
 ついさっきまで、夢の中で必死に泳いでいたのだ。潮の流れがきつくて、ひとりだけ皆の隊列からどんどん遅れていった。
 遠泳は、ひとりならおそらくはとっくにギブアップしているであろう限界を超えた距離を泳ぐ。バディが一緒だから、みんなで声を合わせ、一緒に水を掻いて、遅れまいとついていくうちに、気づくと目的の地までたどり着いている。
 みんなから、決して遅れてはいけないのだ。
 誰か気付いてくれたっていいはずなのに、そのまま置いて行かれてしまった。サチも、振り向いてもくれず、黙々と皆の中に混じって、水を掻いていた。のぞむがいることに気づきもせずに。
 それでいいんだ、サチ、お前って、泳ぐの苦手だったのに、すごいじゃん。水の中でもがきながら、サチに感心している自分は、まるで道化のようだった。
< 403 / 700 >

この作品をシェア

pagetop