空しか、見えない
「俺、なんか、寝言言ってなかった?」

 手を伸ばして、ルーが抱えている赤ん坊の頬に触れてみる。何て滑らかな肌だろう。口を開いて笑いながら、自分に向かって、小さな手を伸ばしてくる。
 この子のことなら、生まれる前から知っている。ブルックリンの病院で生まれてきて、病室で一番に抱き上げたのも自分だった。
 やがて駆けつけた中国人の仲間たちは口々に、赤ん坊の抱える障害を不憫だと口にした。
 けれど母親であるルーは、毅然としていた。
 何を言い返すでもなく、微笑みながら母乳を与えてゆりかごのように体を揺すぶっていた。母親の強さを思い知らされた気がする。自分はそのときのルーを、尊敬した。
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