空しか、見えない
 のぞむには、今起きていることが、他人事のようにしか思えなかった。そういう場面を、映画やTVドラマでも何度も観てきたような気がするけれど、まさか自分に起きるなんて、思ってもみなかった。
 もうどうにでもなれという気にさせられる。慌てたところで身動きも取れず、しばらくは先の予定もたたないのだ。

「OK,Dr.」

 医師は白衣の裾を翻し、ルーたちに向けて手をあげて、慌ただしく退室した。
 ルーが心配そうに、ベッドに近づいてくる。

「致死率なんて、Dr.言ったよ。のぞむは、助かってラッキーだったって……」

「大げさなんだよ」

 ルーは、胸に手をあて、首を横に振っている。
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