空しか、見えない
 岩井でのぞむに出会って、佐千子は久しぶりに、自分が新聞記者になりたいという情熱に溢れていた頃を思い出していた。
 大手新聞社の腕章をつけるのが夢だったはずではない。新聞の片隅に掲載された小さなニュースが、この世界の見知らぬ誰かに届く。どこでその情報を待っている人がいるかわからない。自分の書く一文一句を、どこで誰が読むのかもわからない。けれどその一文がきっかけで、世界が変わるかもしれないのだ。その大切な緊張感を、ようやく思い出そうとしていた。
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