空しか、見えない
 取材中や原稿を書いている間は、メールについても忘れていた。けれど、ふっと気が緩んだ一瞬に、またあの文字が頭に浮かんでくる。

〈I am Rue〉

一体、何なの? どうしてあなたがのぞむのiPhoneを使って私のアドレスにメールをしてくるの?
 とても嫌だと、佐千子は思った。そんなことをしてくるという理由だけで、自分はルーという人を好きではないと思った。好きではないし、そんな人と一緒に暮らしているのぞむが、やはり理解できなくなった。
 再会したのぞむの気持ちが、せっかく少しわかりかけた気がしていたのに。のぞむには、連絡できない理由があったのだと、受け入れ始めていたのに。それに、のぞむをまだ嫌いにはなれないでいるのもわかったというのに。
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