空しか、見えない
 佐千子は、駅ビルの自然食の店で買ったサンドイッチの包みを開け、紅茶を淹れた。独身の女の夕食としては本当に情けないけれど、忙しい日には、そんなの日常茶飯事だ。別に、何とも思っていなかったはずだが、それらをダイニングテーブルの上に置き、パソコンを立ち上げるとき、まるで光の向こうから、会ったこともないルーという人にこちらを覗かれているような気がしてならなかった。
 勝手にイメージしてしまう。赤ん坊を育てながらもやすやすと、色鮮やかな中華料理を何品も、あっという間に料理してしまう人。ふるまうなんていう大げさな感じじゃなくて、当たり前のように食事の用意ができる人。
 そして、そんなルーに甘えて生活しているのぞむの姿も容易に想像がつき、胸のつかえのような嫉妬の心が俄に広がるのを、佐千子は認めた。
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