空しか、見えない
「ハイ! サセ。何、そんなパソコンなんて提げてきちゃって。もしかして、例の岩井新聞の取材?」

 店へ駆け込むと、千夏は、すでに大きなジョッキでビールを飲んでいた。純一はその横で、グラスに白ワインだ。
 ふたりとも、こざっぱりした姿で、笑っている。

「いいな、私も泳ぎたかった」

「だから早くジムを決めようよ。今日幾つか、よさげなところ、リンク貼ってメールしといたからね」

 そういう千夏に、佐千子は頷く。
 話そうかどうか、ここまで来て、また迷い始めてしまう。やっぱり、誰かに話すようなことではないのではないか。ましてや、自分はなぜパソコンまで持ってきてしまったのか? 取材と誤解されている方が都合が良いかもしれない。
 けれど、このままでは上擦った気持ちが一向に着地しそうになかった。
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