空しか、見えない
「あのね、これを見てほしかったの」

 佐千子はそう言うと、足の高いカフェテーブルの上で、ノートパソコンを開いた。

「本当は、勝手に人のメールなんて見せちゃいけないのはわかってるけど、私の英語力じゃおぼつかないし、純一にも読んでほしい」

「英語って?」

 ワイングラスの細い足をつかみ、純一がモニター画面を覗き込んでくる。

「のぞむが、帰国早々、入院したらしいの。ここにある病名は、膵臓炎だって。それでね、それを伝えてきたのは、彼が話していたルームメイトだった。彼女は私の心が知りたいって。たぶん、そう書いてあるんだと思うよ」
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