空しか、見えない
 両腕を伸ばしておもむろに水中に飛び込むと、ざばーんという派手な水飛沫と音が上がった。

「ちょっと、だめですよー」

 背後でインストラクターの声がこもって聞こえる。おそらくここでは飛び込みは禁止だったのだろう。 
 ざまあみろ。
 冷たい水に体が冷やされる。素肌が水を受け入れる。
 この音。耳の奥に伝わる水圧と、ぽこぽこ言う音。
 浮力を感じる。昔より脂肪がついた分、ずっとよく浮くみたいだ。
 水を掻く。リズムよく、大きく掻く。
 手と足がばらばらにならないように。平泳ぎで、水を掻き続ける。それで、顔をあげたときの目線はどこ? そう、もっとまっすぐ顔を上げて……。
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