空しか、見えない
「あの、俺」

 低い男の声が響いた。はっきり言って、ここに住んでからそんな風に男の声が響いたのは、はじめてだった。

「俺って?」

 モニター画面の不鮮明な画像を、喰い入るように見た。

「環。急にごめん」

「環って、急にどうしたの? こんな夜遅くに」

 ドアを開けるべきか自分が降りていくべきなのかと考えた。けれど、すでに部屋着のスウェット姿だ。思わず、ドアを開けてしまった。
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