空しか、見えない
 えっ、と環の声が漏れて、彼は驚いたように両手を宙に上げる。環ってばかだとサチは思う。どうして抱きしめてくれないのだろう。そのまま当たり前のように抱きしめてくれたら、ただの友達ではない別のふたりになれるのかもしれないのに。ここまでやって来ておきながら、どうしてえっ、なんて声を出すのだろう。
 革のジャンパーの匂いがして、きしきし革の擦れる音がしている。
 環が急に身を屈めるようにサチの体を抱きしめた。ぎゅっと、長い腕でサチの体を包んだ。
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