空しか、見えない
 さらに腕を伸ばしてきた環の手を、サチはもう一度両手で柔らかく押し返した。
 そのうち、なんだか泣けてきた。

「私こそ、ごめんね。いつも心配ばかりかけて」

「サセ。俺でよかったら、いつでもそばにいるから」

 また腕が遠慮がちに伸びてきた。

「どうしていいか、わからないの。もう私だって、のぞむになんて振り回されたくないの。わかってるの」

 隣の部屋の住人の咳払いが聞こえた。
 小声とはいえ、廊下に響いているのだろう。
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