空しか、見えない
「帰って、環」

 片目を半分瞑ったような表情で、環が首を傾げてこちらを見ている。

「お願い、本当に帰って」

 今度は手が確かに伸びてきて、力強くサチの腕を掴んだ。逞しい手の力が、サチを上擦らせていた。このままでは、止められなくなる、と感じた。環に身を任せてしまいたくなる。上擦った自分を鎮めてもらいたくなる。
 その腕を押し返すと、サチはドアの内側に自分だけ入り込み、扉を閉めた。
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