空しか、見えない
 環は、カウンターの右端、サセは左端。
 ふたりに何があったのかは、少しばかりサセからも聞いたけれど、どっちも大げさなのだと千夏は思う。
 もうこんなに長く友達をやっているんだから、一度くらい、くっついてみたらいいではないか。もはや、のぞむに義理立てすることなんてないんだし、お互いの健全な男と女の体をぶつけてみたらいいのだ。
 大体、どうしてサセばかり? と千夏は、中学生の頃にも抱いた淡い思いに包まれていった。千夏だってはじめは、背中がしなやかな体つきの、バンビのような顔をしたのぞむが好きだった。好きだったからこそ、知っている。のぞむは、いつもサセの方ばかり見ていた。彼の視線の先には、いつもサセがいた。おっとりとしていながら、見守るように、何か事あるごとにサセを見ていたのだ。
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