空しか、見えない
「私には、少しわかるような気がしますよ。彼も、ええ、義朝さんもいつも皆さんのことを心からうれしそうに話していて、やっぱり羨ましかったっていうか。何ていうか私、こんな日が来るなんて、思っていなかったんですよ」

 乾いた布でグラスを磨きながら、そう言う。

「こんな日って?」

 環が、はじめて話の輪に加わった。

「こうやって皆さんに会える日です。義朝さん、誰もここには連れてきてくれなかったから、本当はこんな風に私が会ってよかったのかどうかも、わからないんです」

「義朝、照れ屋だったからね」

 純一がごく自然にそう笑いかけた。
< 499 / 700 >

この作品をシェア

pagetop