空しか、見えない

「考えてみたらさ、僕らにはもう、それぞれの生活があるじゃないか。だけど、これまではハッチはハッチだった気がするんだ。まだ誰も結婚していなかったし、みんなが、元気だったし」

　純一が、そう呟く。

「でもこれからは、順繰り家族が増えていったりして、ハッチの中だけじゃなくて、ハッチの輪が大きくなっていくといいよね。ハッチがばらばらになるんじゃなくて」

　フーちゃんがそう続き、グラスのお代わりを頼む。

「だから純一、私たち、あなたがいつかきっと婚約者をみんなにちゃんと紹介してくれるのだって、待ってるからね。あなたが好きになった人なんだから、きっと素敵に決まってるもの」

　マリカがそう言って、柔らかな茶色の髪を耳にかける。どんな仕草も、女らしさの塊だ。