空しか、見えない
「のぞむって、本当、ハッチの問題児。義朝も、こぼしてませんでした?」

 フーちゃんがカウンターの内側のまゆみに訊ねると、彼女は振り返り「いいえ」と柔らかく口にして、またえくぼを浮かべた。

「でも、よく羨ましいって言っていましたよ。後先考えずに、アメリカでの暮らしに夢中になっているんだろうなって。義朝さんの会社は、ノルマとかいろいろ厳しかったみたいだから。時々ここでも、こぼしてました。今度は布団を売れだってさって。営業しに、ここに担いできていい? とか、冗談だけど、言っていましたよ……すみません、今日の私は幾らなんでもしゃべり過ぎです」
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