空しか、見えない
 混雑した人ごみの中から、黒いボストンバッグを提げて現れたのぞむは、頭にサングラスをのせて、顔中に無精髭をはやしていた。少なくとも千夏たちよりはうんと年かさに見えた。千夏がよく知るのぞむは、腰の位置が高くて、紺のブレザーが誰より似合うタイプだったし、何でも卒なくこなしたのに、のぞむ、ちょっと老けちゃったかな、というのが第一印象だった。飛行機が着いたばかりというのもあるけれど、疲れているみたいだし、別人のようだとも感じた。
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