空しか、見えない
 もうやめようと、千夏は真剣に思った。不実な男にばかり振り回されるのは、やめよう。自分には、あんなに立派な仲間たちがいるのだから。みんな夏まで、真っすぐに、それぞれの海を泳いでいこうとしているのだから。
 相手の番号をメモリから消去すると、千夏はコートの襟を立てて、ひとりで地下鉄の階段を降りていった。頭の中で、さっき聴いたばかりの優しいメロディーが鳴る。どこか心が鎮められていくような気持ちがした。
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