空しか、見えない
 ルーが料理の得意なことは知っていたが、それに甘えるわけにはいかないと自分に言い聞かせてきたのだ。
 だが、のぞむが医師から言い渡された食事制限を知ると、ルーは親身になって、油や塩分の少ない料理を毎日用意してくれるようになった。十分な金もなく、貯金も減る一方ののぞむには、ありがたい限りだったが、自分はこの部屋に幽閉されているようにも感じた。それにまた今日も、食卓を前に、こんな話が始まるのだ。

「Please stop it.頼むから、そんな話、今はやめてくれないかな」

「今はやめろ? じゃあ、いつならいいの? あなたは、いつ決めてくれる? のぞむ」

 ルーは真っすぐに、自分の意見を主張してくる。ルーに限らない。アメリカで出会った人たちは、曖昧な言葉は使わない。こんなとき、自分はつくづく日本人なのだと思う。言葉の外で、互いの心を読み取り合うことができるはずだと信じている。
 こうして弱ってくると、ますますその曖昧な場所へ逃げ込みたくなる。曖昧というより、繊細なのだと言ってはずるいんだろうけど。
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