空しか、見えない
 来て半年ほど経った頃、のぞむは何とかひとりでニューヨークの街を歩けるようにはなっていた。地下鉄を覚え、片言の英語も話せて、フリーで入れるクラブパーティの日程なども入手できるようになっていた。または、セントラルパークで日がなぼんやりする孤独のやり過ごし方だって覚えた。
 その頃、女の子たちと遊ばなかったと言えば嘘になる。ルーと出会うまでは、知り合ったばかりの女の子の家に泊めてもらったことだってある。
「ジャパニーズボーイと、一度寝てみたかったの」と口にするような軽々しい子たちに、一時の救いをもらい、でも、すぐに悔いが募った。
 自分は確かに、ルーのおかげで、ニューヨークでひとりで生きる孤独と不安から解放されたのだ。
 でも、だからといって、家族になるだなんて、考えたこと、なかったよな。
 考えることから、逃げてきたのだ。
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